人間密着ドキュメンタリー
「情熱大樹」
どうでもいいことにいつも全力で
INABAの提供でお送りします
2018年6月某日
AMPM4:00
人口わずか7万人
長野県伊那市は富県
夏を目前にした南アルプスの麓に
その会社はあった
有限会社スワニー
弱電部品製造の町工場が製品開発設計会社として再スタートし
わずか8年足らずで大手企業から注目される会社へと成長させた男が居るという
我々は彼に会いに現地へとチャリを走らせた
ドアを開けると
作業着姿の男が蛍光灯に照らされ
なんだか落ち着かない様子で立っていた
彼の名前は「橋爪良博」
この男こそがここ有限会社スワニーの代表取締役社長である
「チャリでキタ」と伝えると
橋爪は挨拶もほどほどに外に飛び出した
その姿はまるでトムソーヤそのものだ
敷地内に座り込むと何やら作業らしき事を始めた
一瞬草むしりにも見えるが
ダンゴムシを集めているらしい
物心ついた頃から彼のルーティーンの一つのようだ
ダンゴムシをポケットいっぱいに集めた頃
社員たちが出社する
橋爪は毎日社員1人1人に名前を聞く
これも「ものづくり」にとって欠かすことのできない一つらしい
全員の名前を聞いた後
この日最初の商談
橋爪は商談に入る前に相手に必ず聞く事がある
パンツはトランクスかボクサーパンツかブリーフかもしくはノーパンか
橋爪はそれに合わせて話術を変えていくらしい
橋爪の質問に商談相手が少し顔を赤らめながら「ノーパンです」と答えた
すると橋爪は言葉の端々に英語をかなり多めに使い話し始めた
商談相手が小刻みに頷き
そして次の瞬間大きく頷いた
商談成立である
これが橋爪の話術力だ
商談が成立すると橋爪は
上機嫌で外の自動販売機に向かった
ジュースを買う時に必ずボタンを16連射するのも橋爪のルーティーンの一つ
時間に終われる日々
外で休憩しながら酸素を吸い二酸化炭素を吐き出す動作を繰り返し行うのが安らぎのひとときでもある
そしてこの僅かな休憩時間の間に考えるのが
ダンゴムシの事だそう
石をひっくり返してダンゴムシを捜す時に
ダンゴムシみたいだけど丸くならないやつ
あれ
ダンゴムシみたいな奴って言われてるけど
ワラジムシって言うんだ
団子みたいに丸くなるからダンゴムシ
丸くならずに草鞋みたいな形だからワラジムシ
最後に我々は聞いてみた
「ものづくりとは?」
橋爪は穏やかな表情でこう答えた
「ものづくりとは物を作る事かな」
メガネの奥に見えるキラキラと輝きを放つ
少年の様な目の先は
石の下のダンゴムシをしっかりと見ていた